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金融機関の連携が変えるAML対策

作成者: Ervin Szerdocz|2025.09.17
 

あなたが多国展開する中堅銀行『ABC Bank』のコンプライアンス担当責任者だと想像してみてください。日々あなたとチームは、多額の現金預け入れ、不審な国際送金、説明のつかない口座の動きなど、膨大な取引データを精査し、少しでも不正の兆候がないかを探しています。 しかし、たとえ内部の管理体制がしっかりしていても、犯罪者は複数の銀行に活動を分散させるため、各銀行が見ているのは全体像の一部にすぎず、不正の全貌を捉えるのは容易ではありません。

従来のマネーロンダリング対策(AML)は、各銀行が独自に不審な取引を検知し、規制当局へ報告する仕組みに依存しています。ところが、犯罪組織はこの分断された仕組みを逆手に取り、複数の金融機関に活動を分散させることで、個別の銀行から見れば無害に見えるように偽装します。さらに、厳格な個人情報保護規制や金融規制がデータ共有を難しくしており、各銀行は自ら保有する取引記録だけに頼らざるを得ないのが現状です。

マネーロンダリング対策を次のステージへ──セキュアな協働アプローチ

マネーロンダリング対策を次のステージへ──セキュアな協働アプローチPartisia Confidential Computing は、これらの障壁を克服する新たな手段を提供し、規制の厳しい銀行業界において金融機関同士が協力できる仕組みを実現します。

当社のマルチパーティ計算(MPC)技術により、複数の銀行が機密情報を明かすことなく、不正の可能性がある取引に関するインサイトを共有することが可能になります。各参加金融機関は、生データや個人を特定できる情報を一切開示することなく、不審な取引パターンを可視化できます。さらに、ブロックチェーン技術を活用することで、透明性の高い改ざん不可能な監査証跡を保持し、ネットワーク内の銀行間の協力をより強固な信頼関係のもとで実現します。

すべての取引データを一元的なリポジトリに集約するのではなく、各銀行が自らのデータを暗号化したまま管理することで、“第三者への全面的な信頼”を置く必要がありません。この設計により、GDPRやAML/KYCガイドライン、さらにはAI ActやData Actといった新たな枠組みにも準拠可能です。不審なパターンを特定するために必要なインサイトだけを安全に共有することで、コンプライアンス担当者は従来は見えなかった複数機関・複数国にまたがるマネーロンダリングのつながりを発見できるようになります。

実際の運用では、各銀行が自社のセキュアな環境内に Partisia プラットフォームのノードを配置し、平文データが外部に出ることは一切ありません。プラットフォームは生データを暗号的に保護された“シークレットシェア”に変換し、複数の銀行間で分散計算を実行します。これにより、もしABC銀行の取引パターンが他の金融機関の動きと一致した場合、機密情報を一切やり取りすることなく、コンプライアンス部門が潜在的な不正の兆候を示すアラートを受け取ることができます。

このアプローチにより、ABC銀行のような金融機関にはさまざまな運用上のメリットがもたらされます。コンプライアンス担当者は、時間のかかるデータ共有契約に依存したり、プライバシー規制違反のリスクを懸念したりする必要がなくなります。また、より幅広いデータセットを基にリスクスコアを算出できるため、誤検知(false positive)が大幅に減少し、より精度の高い結果が得られます。

さらに、このプロセスのすべてのステップは分散型データベースに記録され、不変の監査証跡として規制当局に提示できます。ABC銀行のコンプライアンス担当者は、当局から説明を求められた際にも、この仕組みを活用して適切なデューデリジェンスを示すことができ、AMLコンプライアンスチームが定める方針や基準にも確実に沿うことが可能です。

 

AMLプロセスの変革

Partisiaのソリューションは、セキュリティやコンプライアンスを損なうことなくAML管理を強化したい金融機関にとって、明確なロードマップを提示します。導入は段階的に進めることができ、まずは2〜3行の金融機関を接続したパイロットプログラムから開始可能です。この段階で、コンプライアンス部門やデータ保護チームはワークフローを検証し、規制遵守の適合性を確認し、不審な取引パターンが機関の枠を超えて検知された際のエスカレーション手順を洗練できます。やがてソリューションへの信頼が高まるにつれ、参加する銀行ネットワークは拡大し、システムの効果が倍増。金融セクターに残された抜け穴を犯罪者が悪用することは、さらに困難になります。

その結果として生まれるのは、加速するデジタル化と変化する規制環境に対応し続ける、先進的なアプローチです。ここで重要なのは、機密性の高いコラボレーションが単なるコンプライアンス対応ではなく、顧客の信頼と国際金融システムの健全性を守るための戦略的優位性である、という認識です。Partisa Confidential Computingを取り入れることで、金融機関はNIS2、デジタル市場法(DMA)、サイバーレジリエンス法といった新たな規制に積極的かつ的確に対応しつつ、顧客や規制当局が強く求める厳格なデータプライバシーを確保できます。

Partisia Confidential Computingは、マネーロンダリング対策において銀行同士が協力できる画期的な方法を提供します。セキュア・マルチパーティ計算(MPC)とブロックチェーン技術を活用することで、金融機関はインテリジェンスを安全に共有し、複雑なマネーロンダリングの手口を検知しながら、規制遵守を維持することが可能になります。堅牢で将来を見据えたインフラのもとで銀行が連携すれば、恩恵を受けるのは金融業界全体と社会であり、闇に潜む犯罪者だけが取り残されます。

 

ブロックチェーンによる信頼と透明性の強化

Partisia Platformは、すべての処理工程を分散型台帳に記録し、改ざん不可能な監査証跡を構築します。これにより、承認された関係者がいつでも透明性の高い情報にアクセスできる環境を実現します。

このブロックチェーン技術は、銀行や規制当局にとって次のような大きなメリットをもたらします。

1. 規制当局は、機微な顧客データにアクセスすることなく、必要なチェックがすべて実施されていることを検証できます。

2. 銀行グループ内のすべての拠点が同一の正確なデータに基づいて業務を行えるようになり、食い違いをなくし、エラーのリスクを低減します。

3. 記録の改ざんや削除を不可能にすることで説明責任を強化し、顧客や監督当局との信頼構築に不可欠な基盤を提供します。

プライバシーと透明性を両立できるこの仕組みは、銀行にとって真のゲームチェンジャーとなります。

高まるデータ保護へのニーズに応えつつ、今日の規制環境で求められる厳格なコンプライアンス基準を確実に満たすことができます。

「悪を打ち破れるのは、善のネットワークだけだ。」